ワインは冷えている (リクエスト/1)
高校には出席日数の為だけに通っているようなものだ。出席さえとれば、いつもの連中といつもの通り教室を抜け出す。行き先は決まっている訳じゃないが、こう天気の良い日は屋上がいい。1月だから寒いが、それでも日の当たる時間帯だし、俺様の防寒対策もばっちりだ。
こんな日々ももうすぐ終わる。あと2ヶ月。
長かったよな、何年間学生やってたんだっけ俺(笑)。
あと2ヶ月…
…2ヶ月って、どの位だ?
「リーダー、客だぜ。」
臣也が屋上の入口から俺に声をかけた。
「ここに来れば会えると思って。」
…河川唯と宇留千絵。そうか、もう昼休みか。
「お…。カワイコちゃんコンビで、俺に何か?」
なんてな。あの事だろうな。
「邪子さんがアメリカに行くのって、知ってますか。」
周りの番組の連中は「そうなの?」と目配せし合う。
「リーダー、俺達席を外した方がいいかい?」
「いや、構わねぇよ。」
河川さんは厳しい表情で俺を見据え、宇留さんは不安そうな表情で俺を伺う。
「知ってるよ。」
そんな事、何で俺に聞きに来んの。俺に止めてくれとでも?
それとも俺が知らなかったら可哀相だとでも思った?
「私達、この間聞いたんです。」
だろうな。どうせ邪子本人からじゃなくて御女組の連中から聞いたんだろ。
邪子は御女組の連中にも言ってなかった。と言うよりはアメリカへ行くと決心したのは休みに入った後の年末だったし、それまでにも心の中に迷いはあっただろうが、むやみに口に出さなかっただけだろう。
邪子が本来一番先に伝えなければならない御女組の連中に告白したのは、つい先週、そう、あのサッカーを見に来た日だ。
帰りにバイクで送ろうと後ろに乗せて、さぁキーをって時に、邪子は背中でつぶやいた。
「今日あいつらにアメリカに行くって言った。びっくりしていたよ。」
まぁ、想像するのはたやすい。突然の告白に4人は動転し、特にあのうるさい子猫(左真紀)が、ぎゃぁぎゃぁと噛み付いたのだろう。「びっくりしていたよ」だなんてサラリと終わっているものか。「どうして相談も無く決めたの」、「どうして行かなきゃいけないの」、なんてな。
そのとばっちりをあんた達が受けたのも想像にたやすい。興奮した御女組から愚痴でも聞かされたんだろう。気の毒な話だ。
「どうしていいのかわからなくて。」
河川唯は言った。
結局はそこだ。
皆、本当は全部わかってるんだ。
本人の道だって事。止められないって事。当然だ。
だけど、寂しいんだろ。邪子がいなくなるのが。
誰かにこう言って欲しいんだろ。
「頑張れって言ってやればいいんじゃないの。」
俺にこう言って欲しかったんだろ。
河川唯は目を伏せて頷き、宇留千絵はただうつむくだけだった。
邪子は毎日の様に俺の部屋へ来ている。
知ってるさ全部。俺達は毎日の様に会っているのだから。
20040705〜20070202 ナガレバヤシ Qujila , リクエスト , メロン