試合が終わって、あたしはオヤジと一緒に筋に会いに行った。 もう選手の皆さんはぽつぽつと帰っていて、残っていたお友達選手さんが、すれ違いざまに「宜しくね」と優しく声をかけてくれた。 監督室から今日の殊勲者の筋が出てきた。代わりにオヤジが、…この球団の元オーナーが、監督室に入って行く。 「見てみる?」 何を?、と聞き返す間もなく、筋は体を翻し歩き出した。あたしは後ろをついて行く。 連れて行かれたそこは、…。 一面の緑、人工芝。 強大な構造物、真っ黒なスコアボード。 周りを囲む壁、その上に幾多の観客席。 誰もいない、明日のゲームの準備が整ったグラウンド。 筋はベンチの階段を登りその芝へ上がって行くのだが、あたしは足がすくんでしまった。 いなくなったあたしを探して、筋が後ろを振り返る。 あたしの萎縮した表情を読み取って、筋は優しく微笑んだ。 「…神聖でしょう?」 あたしは頷くのが精一杯だった。 筋は階段を駆け下りて、あたしをベンチに座らせた。自らはその横に座る。 何も言葉を交わさなかった。 じっと、グラウンドを見ている。 それだけで十分だ。 あんたの生きている世界。 それを見せてくれていると言う事。 どのくらいしたか、おもむろに筋が口を開く。 「いつか、君の居るライトスタンドにもボールを届けるよ。」 「じゃぁ、サインしてね。練習した通り、大きく54って。」 「その前に君が取れなきゃ意味ないな。君も練習。」 笑って、席を立つ。 今度は筋が後ろに立って、あたしをエスコート。 ベンチから外の廊下へ出た所で、筋はプッと笑った。あたしが振り向くと、 「今、君が座っていた席、オガサワラさんのいつも座っている席だよ。」 「ええっ!? あぁっ、そうだよ! 早く言ってよ! もっかい、もう一回座るぅぅ!」 「駄ー目! もうおしまいです。気づかないもんだねぇ!」 ベンチに戻ろうとするあたしを、筋が抱きしめて笑う。 こうやって、笑って抱きしめられるのが大好きだ。 20030928 ![]() |