ブッちぎり最低人気球団の4月
「ハムには誰がいるの?」
正直、答える人がいなかった。小笠原も田中幸雄も地味な職人であり、ことアピールとなると前に出ない。
だけど1人だけ、いる。
「毎度!」
東京ドームに響き渡るこの大阪弁のお立ち台を、珍プレー好プレーで見た事がありませんか。
岩本勉。日本ハムを、1人でアピールしてきた男。
去年の8月だったと思う。
夜のニュースで明日の予告先発を聞いて血が騒いだ。一晩寝ても、いてもたってもいられない。
西武ドームなんて行った事ないや。パソコンで行き方を調べる。ええっ、遠っ。どうしよう。
こんな日に限ってハム友達は用事があって見に行けないと言う。わお、はじめてのおつかい状態。どうしよう。
なんてな。「どうしよう」じゃねぇだろよ、惚れたもん負け。
先発岩本のゲームを(結局他球団ファンの友達を巻き込んで)、私は埼玉くんだりまで見に行った。
見たかったのだ。岩本を。…お恥ずかしい!
背番号18。言わずと知れたエースナンバー。
岩本が最後にお立ち台に上がったのは、私の記憶も曖昧で…勝てなくなって、もう何年だ?
最後の「毎度!」は苦言もつきまとう。毎度じゃねぇよ、毎度毎度負けやがって。
しかし冒頭で語った通り岩本は日本ハムの宣伝塔だった。小笠原は首位打者を決めたが、オフシーズンのTV番組で日本ハムを宣伝するのは明るいガンちゃん、岩本なのだ。
ファンだって複雑だ。どうして勝てない投手が目立つのか。
いや、違う。勝てないお前がチャラチャラTVに出てんじゃねぇよ。
周囲の不満、でもマスコミは岩本しかいないのだ。
岩本以外にハムに誰がいるってんだよ。
さて、昨年8月の西武ドームは負けたが内容はとても良かった。私は素人だが、「こりゃ調子いいんじゃないの岩本!」と目を見はる投球内容だった。
8月中旬には東京ドームで先発。しかし序盤に大量失点、逆転勝利で敗戦投手はまぬがれたものの、岩本は1軍を去っていった。
シーズンを終えたチームは本拠地を移した。
新しいヒーロー、新庄選手が球団の人気を再生させる。
4月17日。
ロッテの予告先発に黒木。折しも今年はバレンタイン監督が日本球界に復帰。球界は黒木の復活を大々的に報じた。
怪我に泣いたエースだ。背番号54。逸話を知る人も少なくないだろう。
幸せだ。黒木の試合を東京ドームで見る事が出来る。光栄だ。
対する先発岩本。かつてのエース同士の好カード。
黒木の投球は音が違う。復活にかける男の闘志が伝わってくる。
一方我らがガンちゃんは、…、ん?
まぁ、調子も悪くなさそうだ、が絶賛は出来ない、…。んん?
黒木は数年ぶりのマウンドだが、岩本は今年、先発で回っている。勝星こそついてないものの先発で回るなんてここ最近無い事だ。
内容は前の試合の方が良かった様に見える。しかし「投手戦」と呼ぶにふさわしい試合である事も間違いない。
投手戦ではあったが何しろ黒木には復活がかかっている。応援は明らかに千葉ロッテマリーンズの押せ押せムードだった。
が、何となく…
私は「日本ハムらしい試合だ」と感じていた。
その予感は的中する。いや、まったく日本ハムらしい、高橋捕手の一発! どかーんってね!!
割とね、投手が素晴らしいと野手がアシストしてくれないのよ日本ハム。野手が打ってつないでやっと点をもぎ取ると投手が崩壊するのよ日本ハム。活躍すると報われないのよ日本ハム。
何というか、「ズバ抜けた活躍が無くて投打が噛み合う」のが日本ハムらしい。
調子は良くとも不安はつきまとう岩本と、黒木の前に突破口は8番捕手の一発ですか。
まぁね。ウチは9人全員がホームラン打者なので。「らしい」でしょ?
「かつての」エース同士の投げ合いだ。完投は無理だという事を、両ファンは知っている。7回表、一足先に岩本がマウンドを降りる。四球での降板、悔しそうな闘志はきっと次の先発にもつながるだろう。そう、岩本、あなたは先発で回っているのだ。
その裏、黒木も降板。惜しみない拍手で東京ドームはつつまれた。
その後の黒木投手へのインタビューは、各局がこぞって放映していた。清々しく、闘志こもったコメントだった。私も嬉しい。
広告塔・岩本のヒーローインタビューを放映してくれたのは少なかったという。翌朝のスポーツ新聞にも大きくは報じられなかった。
だけど私はしっかりと見た。数年ぶりの彼のお立ち台は。
涙目えぐえぐ。
カッコ悪ィ〜、何泣いてんだよ岩本。
カッコ悪ィ〜、まだ1勝だろうがよ。
カッコ悪ィ〜! 何だその遠慮した「毎度」!
シーズン終盤には何度目の「毎度!」を聞かせてくれるつもりだね。
その時にゃ威勢良く宜しく頼むよ。
岩本、お前が18をつけている限り、私達はその声を待っているんだ。
「毎度! 毎度おおきに!!」
涙は女だけの武器じゃない。惚れ直したよ、ガンちゃん。
オーロラビジョンに映る岩本。ファンに何度も頭を下げた。